半導体の需要は高まっており、半導体エンジニアの仕事内容に興味を持ったという人も多いと思います。実際、「半導体/半導体装置市場の予測」では、半導体市場は2030年には1兆米ドル規模に達すると見込まれており、AI関連技術や車載用途での需要がさらなる市場成長をもたらすと考えられています。
ただ、半導体エンジニアといっても、どのような仕事を行うのかがイメージできないという人もいるかもしれません。そこで今回は、半導体エンジニアの仕事内容や職種ごとの役割、年収、仕事のやりがい、求められるスキルや知識について詳しく解説します。半導体エンジニアの仕事に興味がある方や、就職・転職を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
半導体エンジニアとは
まずは、半導体エンジニアの概要や需要について解説していきます。
半導体エンジニアの概要
半導体エンジニアは、主に半導体の設計・開発・製造・品質管理を担うエンジニアのことです。
半導体とは金属(導体)と絶縁体の中間の性質を持つ物質のことですが、トランジスタやダイオードなどの半導体素子を組み込んだIC(半導体集積回路)も半導体と呼ばれます。集積回路は、コンピュータやスマートフォンなど、あらゆる電子機器の基盤となる重要な部品です。
半導体エンジニアはこの半導体集積回路の製造を行います。その業務には以下のようなものがあります。
- 設計:機能要件に沿った集積回路の設計を行い、電子回路の性能向上を図る
- 製造:微細加工技術を活用し、高密度な回路を形成し半導体を製造
- 品質管理:品質向上とともに不良品を削減するための品質保証プロセスを確立
半導体エンジニアの需要
スマートフォンやパソコンの普及や、AIやIoT、自動運転の開発によって、半導体エンジニアの需要は急速に高まっています。
しかし、半導体エンジニアの数は減少傾向にあります。経済産業省が毎年公表する工業統計調査によると、1998年には約23万人いたものの、2019年には約17万人にまで減少しています。一方で、半導体関連の求人数は拡大を続けています。「半導体エンジニアに関する求人と転職の動向についての調査結果」によると、2013年1~6月期と比べると、2023年1~6月期の求人数は12.8倍に増加しています。
さらに、厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」によると、半導体エンジニアの有効求人倍率は1.12であり、求職者に対して求人数の方が若干多くなっており、求職者は転職しやすいといえます。今後も半導体業界の成長が続くと予想されるため、半導体エンジニアの需要は一層高まるでしょう。
半導体エンジニアの労働環境
半導体エンジニアの労働環境はどのようなものなのでしょうか。半導体エンジニアの労働環境は安定した雇用形態と適正な労働時間が特徴です。
職業情報提供サイトによると、半導体エンジニアの正社員比率は92.0%であり、派遣社員の割合は16.0%にとどまっています。このデータからも、雇用が安定していることがわかります。また、フレックスタイム制を採用している企業がありますし、納期が近づくと残業もあるようですが平均労働時間は160時間と全国の平均労働時間と一致しており、過度な長時間労働が発生しにくい環境といえます。
製造工程の仕事環境としては、ホコリが出にくいナイロン製の白衣に着替え、帽子や手袋、マスクを着用してクリーンルーム内で行うことになります。半導体エンジニアの労働環境はきついという人もいるようですが、そちらについては下記の記事で詳しく解説しています。
『半導体エンジニアの仕事はきつい?きついと言われる理由、向いている人を紹介』
半導体エンジニアの職種ごとの仕事内容
半導体エンジニアにはさまざまな職種があります。ここからは、半導体エンジニアの仕事内容を職種ごとに解説していきます。
半導体設計エンジニア
半導体設計エンジニアは、半導体の設計から評価・最適化までを担当し、電子機器の性能やエネルギー効率の改善に貢献する重要な職種です。
半導体設計エンジニアの主な業務としては、半導体の回路設計やレイアウト設計、性能評価などが挙げられます。半導体設計エンジニアは、半導体がどのような処理を行うかを設計し、製品の機能や性能などの仕様を策定します。そして、コストやエネルギー効率、製造のしやすさなどを総合的に考慮しながら設計を行います。試作と検証を繰り返し行って品質基準を満たした段階で量産化に移行します。
製品ごとの要求に対応するための高度な専門知識と柔軟な設計能力が必要な職種です。
半導体デバイスエンジニア
半導体デバイスエンジニアは、半導体を活用した電子部品の設計や開発を担う専門職です。半導体デバイス(半導体素子)は、MPU(マイクロプロセッサ)やGPU(グラフィックスプロセッサ)、メモリなどのような半導体素子の設計や開発、製造を行います。
半導体デバイスエンジニアは、半導体素子の特性やスペックを検討し、構造設計・試作・評価・解析を行い、性能向上を図るとともに半導体を組み込んだ製品の製造を行います。さらに、評価データをもとに設計を最適化し、量産化へ向けたプロセス開発や歩留まり改善にも携わります。
半導体デバイスエンジニアは、こうした一連の業務を通じて半導体素子や半導体製品の高性能化と安定供給を行います。
半導体プロセスエンジニア
半導体プロセスエンジニアは、半導体の製造工程の管理・最適化を行う職種です。半導体の製造は、多くのステップを経て進められるので、それぞれのプロセスを最適化することが求められます。
フォトリソグラフィ、エッチング、成膜、洗浄、拡散など、各製造プロセスの条件の最適化によって、品質や生産効率の向上を図ります。設備の管理や新規プロセスの導入、歩留まりの改善も担当し、不良率の低減やコスト削減にも貢献します。また、製造現場と連携しながら工程の安定化を進め、量産体制の確立を支えるのも半導体プロセスエンジニアの仕事です。
このように、半導体プロセスエンジニアは、品質・コスト・スケジュールのバランスを取りながら、半導体製造プロセス全体を統括する役割を果たします。
半導体製造装置メンテナンスエンジニア
半導体製造装置メンテナンスエンジニアの主な役割は、半導体製造装置の定期点検や装置のパーツ交換や清掃、定期点検、故障時の修理対応を行い、生産停止による損失を最小限に抑えることにあります。
半導体製造装置はナノメートル単位の微細な加工を行う精密機器であり、わずかな汚れや部品の劣化でも品質や生産に大きな影響を与えることから、定期的なメンテナンスが不可欠です。そのため、品質向上を目的とした改善策の立案、安全管理、リスク予防策の策定も重要な業務となります。
万が一トラブルが発生してしまうと、生産ラインの停止や品質低下を招く可能性があるため、迅速な原因特定と適切な対応が求められます。再発防止のための分析と予防策の実施も重要な役割です。
なお、半導体製造装置のメンテナンスを専門とするエンジニアとは別に、顧客先に赴き半導体製造装置や半導体を組み込んだ製品の点検や保守を担当するフィールドエンジニアという職種も存在します。
『半導体のフィールドエンジニアとは?仕事内容、年収、メリットを紹介』
半導体エンジニアの年収
半島体エンジニアの年収はどれくらいなのでしょうか。厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」によると、半導体エンジニアの平均年収は688.2万円となっています。これは、国税庁の調査による日本の平均年収(461万円)と比べても高く、半導体エンジニアの年収が水準よりも高いことがわかります
また、年齢が上がるにつれて年収も増加する傾向があり、20歳~24歳の平均年収は356.5万円ですが、50歳~54歳では841.26万円に達し最も高くなります。60歳~64歳で568.3万円、70歳以上でも 438.89万円 と、年齢を重ねても一定の収入を得られる職業といえるでしょう。
『半導体エンジニアの年収とは?将来性や高収入を目指す方法、必要な能力を解説』
半導体エンジニアのやりがいとは
半導体エンジニアのやりがいとはどのようなものでしょうか。
最先端技術に携われる
半導体エンジニアのやりがいのひとつは、最先端技術の開発に直接関われることです。半導体はスマートフォン、AI、自動運転、5Gなど、現代のテクノロジーを支える基盤となっています。こうした分野では常に新たな技術革新が求められ、エンジニアとしてその一端を担うことができます。
たとえば、より高速で省電力なチップの設計や、新素材を使った次世代トランジスタの開発など、技術的に高度で挑戦的な業務が日常的に発生します。こうした取り組みを通じて、自らの技術が社会全体に与える影響を実感できる点も大きな魅力です。
このように、技術の最前線で働ける環境は半導体エンジニアにとって大きなやりがいでしょう。
社会インフラを支える誇り
半導体エンジニアとしてのやりがいには、社会インフラを根底から支えているという誇りが感じられるということもあります。現代の生活は、スマートフォン、電気自動車、医療機器、インターネット通信といった多様な分野で半導体技術に依存しており、その重要性はますます高まっています。
電力供給の最適化や交通インフラの自動化、安全性の向上など、社会の安定と発展に不可欠な分野において、半導体技術は不可欠な役割を果たしています。そうした重要な分野で活用される製品の開発に関わることは、単なるものづくり以上の使命感をもたらしてくれるでしょう。
自分の仕事が人々の暮らしを支え、未来の社会を形作っていく一助になる、そう実感できることが半導体エンジニアという職業の大きな魅力であり、やりがいと言えるでしょう。
専門性が高まりキャリアに直結
半導体エンジニアのやりがいには、専門性が向上し、そのままキャリアアップにつながる点が挙げられます。半導体分野は高度な知識と技術を求められるため、実務を通じて培ったスキルや経験は他分野にも応用でき、業界内外で高く評価されます。
プロセス開発や回路設計、品質保証など、それぞれの分野で深い専門性が求められますが、その中で実績を積み重ねることで、チームリーダーやマネジメント職、さらには研究開発や技術コンサルタントといった多様なキャリアパスが開かれていきます。
このように現場での経験を通じて専門性を磨き、市場価値を高められる点も半導体エンジニアとして働く大きな魅力と言えるでしょう。
グローバルに活躍できるチャンス
半導体エンジニアのやりがいには、グローバルに活躍できるチャンスがあることが挙げられます。半導体は世界中で必要とされている産業であり、日本国内だけでなく、アメリカ、台湾、韓国、欧州諸国など、多くの国の企業や研究機関と連携しながら仕事を進める機会があります。
大手半導体メーカーでは海外の開発拠点との共同プロジェクトが日常的に行われており、国境を越えた技術交流や英語でのコミュニケーションが求められます。また、海外赴任や国際学会への参加といった場を通じて、自身のスキルを世界で通用するものへと高めていけるのも魅力でしょう。
半導体エンジニアに求められるスキル・知識
ここからは、半導体エンジニアに求められるスキルや知識を紹介していきます。現在エンジニアとして活躍している方でも、業界や職種が違えば必要な知識も異なります。どういった知識が必要となるのかを把握して、就職や転職に役立ててください。
プログラミングスキル
半導体エンジニアとして活躍するためには、一定レベル以上のプログラミングスキルが求められます。プログラミングスキルが求められる理由は、半導体設計においてはシミュレーションや検証が不可欠であり、それらにプログラミングが必要となるからです。
例えば、半導体の不具合を特定する際には回路の動作をコンピュータ上で再現しなくてはならず、プログラムを活用した自動化を行わなくてはなりません。そのため、C言語やC++を用いて設計プロセスを効率化するスキルが求められるのです。半導体設計でよく使用されるプログラミング言語には、以下のようなものがあります。
- C言語
- C#
- C++
- Python
さらに、設計図の作成や回路のシミュレーションに使用する専用ソフトウェアの習得も重要です。
電気・電子の知識
半導体エンジニアには、電気・電子の知識も欠かせません。半導体の設計や開発では、電子回路の動作原理を理解し、適切な回路設計を行うことが求められます。また、ICチップ内部の構造や信号の伝達特性を把握して、性能の最適化やトラブルシューティングも行わなくてはなりません。
そのためにも、トランジスタやコンデンサなどの部品を適切に配置し、設計したとおりの動作を実現する能力が必要ですし、ICチップのレイアウト設計において配線や配置を工夫することで電力効率や信号伝達速度の向上を行えなくてはなりません。そのために電気や電子の知識が必要なのです。
未経験者にとっては、これらの基礎をしっかり固めることが、その後の成長を左右する重要なポイントとなります。専門学校や大学で電気・電子工学を学んだ経験があれば、就職や転職の際に強みとなる可能性があるでしょう。
回路設計・シミュレーションスキル
半導体エンジニアとして活躍するためには、回路設計・シミュレーションスキルを習得することが非常に重要です。
回路設計とシミュレーションは、半導体製品の性能や信頼性を左右する中核的な業務です。半導体開発においては、トランジスタや論理回路の設計、各種動作条件下での動作確認、最適な設計パラメータの抽出といった工程が不可欠であり、それらを効率的かつ正確に進めるには高度な設計力とシミュレーション技術が求められます。
また、アナログ回路ではノイズ耐性や温度依存性、デジタル回路ではタイミング解析やロジック検証など、対象に応じたスキルが必要です。これらはすべて、シミュレーション技術と密接に関係しています。このように、半導体エンジニアにとって回路設計・シミュレーションスキルは基礎かつ必須の能力ですので、身につけるのがよいでしょう。
製造プロセスに関する理解
半導体エンジニアとして成長するためには、製造プロセスに関する理解を深めることが欠かせません。
製造プロセスの知識は、設計と量産の橋渡しを担う重要な要素であり、設計者が製造現場の制約や工程の最適化ポイントを理解することで、歩留まり向上やコスト削減に直結します。プロセスに対する理解があることで、設計段階から量産を見据えた判断ができ、不良やトラブルの発生を未然に防ぐことができます。また、微細化が進む近年では、プロセス由来のばらつきに対する設計マージンの取り方も重要になっています。
製造プロセスに関する理解は、設計品質の向上や製品の量産性を左右する重要なスキルなのです。
英語力
半導体エンジニアには英語力も求められます。半導体の研究・開発は全世界で進められており、最新の技術情報や研究論文は英語で発信されることが多いです。半導体エンジニアとして業務を行っていくためには、こういった最新の情報を英語で継続的にキャッチアップする必要があります。
また、素材や製造装置の調達、技術協力などで海外のパートナーとやり取りを行う機会も多く、英語での円滑なコミュニケーションが求められます。こういった理由から半導体エンジニアには英語力が求められるのです。
日ごろから海外の技術者と交流する機会を増やすことで、半導体の最新知識を得られるとともに実践的な英語力を養うこともできるでしょう。
コミュニケーション力
半導体エンジニアにとって、コミュニケーション力は重要なスキルです。半導体エンジニアは、プロジェクトチーム内のメンバーと協力して仕事を行いますし、関連工場や半導体商社、クライアントなど、多様な関係者と連携しながら仕事を進めることになります。
特に、異なる工程のスタッフやクライアントに対しては技術的な内容をわかりやすく伝える力が求められますし、相手の意見や事情を聞きながら協調する力が必要になります。専門用語ばかりでは理解されにくいですし、相手の要望や意図を正確に把握するために的確に質問をする力なども身につける必要があるでしょう。
半導体エンジニアにおすすめの資格
半導体エンジニアとして活躍するためにおすすめの資格を紹介していきます。
半導体技術者検定
半導体技術者検定は、半導体分野での専門性を証明できる資格です。資格を取得することで、半導体の製造・設計・評価などに必要な知識とスキルを体系的に学ぶことができます。
半導体技術者検定は、半導体の物性や製造プロセス、回路設計、品質管理などに関する筆記試験で、選択式や記述式の問題が出題されます。実務に即した内容が多く、半導体技術の基礎から応用までの理解度を測る試験となります。
試験は1級から4級までの階級があります。3級では半導体チップの開発や製造についてや、それを使いこなすための基礎知識を、2級ではチップの応用についての専門知識、1級では俯瞰視点から問題解決ができる広範な専門的知識を持つことを証明できます。
半導体製品製造技能士
半導体製品製造技能士は、半導体製造に関する知識と技術を証明する国家資格です。1級と2級があり、それぞれ取得には一定の実務経験が求められます。
この資格を取得することで、クリーンルーム内での半導体製品や集積回路の製造、検査、品質管理業務に携わる技術者としてのスキルを証明できます。
1級の受験には7年以上、2級には2年以上の実務経験が必要で、学科試験と実技試験の両方に合格しなければなりません。なお、半導体製造工場で勤務しながら、クリーンルームでの作業手順や半導体の製造工程を学び、実務経験を積みながら資格取得を目指すことも可能です。
CAD利用技術者試験
CAD利用技術者試験は、ものづくりの現場で必要とされるCADの知識や技術を証明する資格で、2次元CADと3次元CADの2種類があります。それぞれの試験は、スキルレベルに応じたグレードに分かれています。2次元CAD利用技術者試験には、基礎・2級・1級(建築・機械・トレース)の3つのグレードがあります。
- 基礎はCADの基本操作や知識を学び始めた人向け
- 2級は実務での活用を想定した中級レベル
- 1級は専門分野に特化した高度な設計スキルを証明する資格
3次元CAD利用技術者試験には、2級・準1級・1級の3つのグレードがあります。
- 2級は3Dモデリングの基本知識を問う内容
- 準1級は実務に近い操作能力を評価する
- 1級では高度な設計や解析能力が求められる
この資格は、CADを用いた設計業務に携わる技術者にとって重要な資格です。
半導体エンジニアへの就職・転職はベスキャリ機電で
半導体エンジニアにはさまざまな職種があり、その仕事内容は設計・開発・製造・品質管理など多岐にわたることもあり、半導体エンジニアの求人は増加しています。就・転職においてチャンスが大きい仕事といえるでしょう。半導体企業のなかには、未経験者をイチから育成する研修を行っている企業もあるので、未経験者でも半導体エンジニアを目指すことができます。
ベスキャリ機電では、半導体エンジニアの求人を多く掲載しています。15年以上の運営実績があり、全国のさまざまな企業と強固なネットワークを築いているため、他社では見つけにくい独自の求人や未経験者向けの求人も豊富に揃えています。求職者1人ひとりに専属のアドバイザーが付き、希望や条件に合った求人を紹介可能です。
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